はじめに
自動車運送業分野は、2024年3月の閣議決定で新設された分野の中でも、特に制度設計が複雑な部類に入る。トラックとタクシー・バスで日本語要件が異なり(タクシーとバスは同じ水準で、バスには離島・半島地域の特例がある)、かつ一次情報の参照枠(CEFRを参考にした「日本語教育の参照枠」)と二次情報のJLPT換算が混在しやすいという特徴がある。本稿では、この分野の実務上の要点を整理する。(出典:出入国在留管理庁「令和6年3月29日の閣議決定等に関する情報」/文部科学省「日本語教育の参照枠」)
特徴1:日本語要件が「参照枠」で規定されている
令和8年1月23日の閣議決定による現行の分野別運用方針では、自動車運送業分野の日本語要件は、JLPT(日本語能力試験)ではなく「日本語教育の参照枠」を基準に規定されている。
- トラック区分:参照枠のA2.2相当以上(証明に使える試験:JFT-Basic A2.2相当以上、または日本語能力試験N4以上)(出典:自動車運送業分野の運用方針(別紙10)p.10/自動車運送業分野の運用要領 p.7)
- タクシー区分:原則として参照枠のB1相当以上(証明に使える試験:日本語能力試験N3以上など。CEFRのB1相当以上と判定された場合に限る)。ただし、B1相当の日本語能力を修得するための学習体制を整備し、かつ不測の事態等に乗客・営業所・警察署・消防署等との意思疎通を補助する者(自社に雇用されている者で、旅客自動車運送事業の経験者、または対応の指導を受けた者)を同乗させることを条件に、A2.2相当の水準でも運転業務に従事できる。運用要領では、これが日本語学習プラン(分科会の審査が必要)の作成と、日本語サポーターの配置として具体化されている。なお、B1相当以上の確認が始まるのは、令和9年4月1日以降の申請からとされている(在留資格の変更・更新の扱いは別途示される予定)。(出典:自動車運送業分野の運用方針(別紙10)p.10/自動車運送業分野の運用要領 p.7/出入国在留管理庁「日本語能力水準「B1相当以上」の確認開始時期について」/自動車運送業分野の告示(令和6年国土交通省告示第1362号)/自動車運送業分野の運用要領 p.14〜16)
- バス区分:原則はB1相当以上である。条件付きでA2.2相当を認める取扱いは、貸切バス(一般貸切旅客自動車運送事業)には適用されない。さらに、離島・半島地域等における一般乗合旅客自動車運送事業等(貸切バスは対象外)に限り、市町村との連携や緊急時の連絡体制の整備を条件として、補助者を同乗させずにA2.2相当で運転業務に従事させることが認められている(出典:自動車運送業分野の告示(令和6年国土交通省告示第1362号)/自動車運送業分野の運用要領 p.14〜16)
二次情報の多くはJLPTの級(N3・N4)で説明しているが、現行制度では、日本語能力の水準そのものは参照枠で定められ、JLPTの所定の合格は、その水準を証明する正式な手段の一つとして運用要領に位置づけられている。実際、2026年9月時点でも出入国在留管理庁の分野紹介ページには「日本語能力試験(N3以上)」等の従来の表記が残っており、一次情報の間でも表記が揃っていない。この点を取り違えると、補助者の同乗や学習体制の整備のような、参照枠のA2.2相当とセットで規定されている要件を見落とす可能性がある。
特徴2:受入れ企業に業界特有の認証が必要
自動車運送業分野の受入れ企業(特定技能所属機関)には、他分野にはない認証要件が課される。日本海事協会が実施する「運転者職場環境良好度認証制度(働きやすい職場認証制度)」の認証を受けていることが必要である。トラック運送業に限っては、全国貨物自動車運送適正化事業実施機関(全日本トラック協会)が認定する安全性優良事業所(Gマーク)でも要件を満たす。タクシー・バスではGマークによる代替はできない点に注意が必要である。(出典:自動車運送業分野の運用方針(別紙10)p.7〜8)
いずれの認証も取得までに一定の期間を要するため、採用計画を立てる前提として、認証取得のスケジュールを組み込む必要がある。
特徴3:来日から就労開始までのリードタイムが長い
自動車運送業分野は、来日後すぐに運転業務に就けるわけではない。「特定活動」(特定自動車運送業準備)の在留期間中(トラックは最長6か月、タクシー・バスは最長1年)に、外国免許からの切替(外免切替)等によって日本の運転免許を取得する必要がある。タクシー・バスの区分では、第二種運転免許の取得に加え、新任運転者研修の修了も求められる。(出典:自動車運送業分野の運用方針(別紙10)p.7〜10)
このため、採用が決まってから実際に運転業務を開始するまで、最長で半年から1年程度を見込む必要がある。
特徴4:技能実習からの移行は限定的
運用要領では、第2号技能実習を良好に修了した人材について、修了した職種・作業の種類にかかわらず、当面の間、必要とされる日本語能力を有していることが証明されたものとして扱い、日本語試験の受験を不要としている。この取扱いは当初トラック区分に限られていたが、令和8年10月9日の運用要領の改正で、タクシー・バス区分にも設けられた(タクシー・バス区分ではA2.2相当として扱われる)。技能試験は免除の対象外で、別途受験が必要である。(出典:自動車運送業分野の運用要領 p.8〜9/同 新旧対照表(令和8年10月9日))
自動車運送業は2024年に新設された分野のため、技能実習からの移行という選択肢自体が、他の伝統的な分野(介護・建設等)と比べて限定的である。
実務上の示唆
自動車運送業分野を扱う際は、次の3点を分けて理解しておく必要がある。
- 日本語能力の水準は参照枠で定められているが、在留諸申請では、運用要領が定める試験の合格(JFT-BasicのA2.2相当以上、日本語能力試験のN4以上・N3以上など)がその水準の証明として用いられる。「参照枠の水準」と「証明に使える試験」を分けて理解することが、正確な案内の前提になる。特にタクシー・バスのA2.2相当は、学習体制・補助者の同乗等の条件とセットで確認する
- 受入れ企業側の認証(働きやすい職場認証制度、トラックはGマークも可)が前提条件になる
- 免許取得のリードタイムを、採用スケジュールに織り込む必要がある
なお、同じ輸送・物流に関連する分野として、物流倉庫分野も2026年に新設された分野で、2026年9月18日に要領別冊が制定されるなど、受入れに向けた準備が進んでいる段階である。試験や受入れの開始時期は、出入国在留管理庁の最新の情報を確認されたい。自動車運送業と物流倉庫は、いずれも新設分野特有の「制度は決まったが運用が追いついていない」という状態を象徴する事例といえる。
分野の概要や3区分の業務内容は、一般向け記事「特定技能「自動車運送業」とは」で解説している。
参考文献
- 自動車運送業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(別紙10)(出入国在留管理庁)
- 自動車運送業分野に特有の事情に鑑みて定める基準(令和6年国土交通省告示第1362号)
- 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-自動車運送業分野の基準について-(令和8年10月9日一部改正)(出入国在留管理庁)
- 自動車運送業分野特定技能1号評価試験実施要領(国土交通省)
- 自動車運送業分野(日本海事協会)
- 日本語能力水準「B1相当以上」の確認開始時期について(出入国在留管理庁)
- 日本語教育の参照枠(文部科学省)
あわせて、制度改定の反映タイムラグについては特定技能、令和8年1月23日改定の反映タイムラグ問題、協議会・登録支援機関の要件の名称混同については特定技能の協議会・受入れ機関要件、名称混同と実務上の注意点、受入れ見込数・人数枠の誤解については特定技能の受入れ見込数・人数枠、実務で誤解されやすい4つの論点、登録支援機関に固有要件を課す分野の横断整理については登録支援機関への委託要件、特定技能19分野を4つの型で横断整理、木材産業分野の協議会加入手続きについては木材産業分野の協議会加入、2段階手続きの実務フロー、リネンサプライ分野の位置づけについてはリネンサプライは工業製品製造業の一区分ではない、支援計画の義務的支援10項目の基準適合ラインについては義務的支援10項目の基準適合ライン、「望ましい」と「義務」の見分け方、特定技能の届出(随時届出の種別・起算日・期限)の誤解については特定技能の届出、「期限内到達」と「自己都合退職=受入れ困難届出」の誤解を参照されたい。
本稿は2026年10月14日時点で一次資料と照合した実務メモです。最新の運用については各分野の一次情報をご確認ください。

