1号特定技能外国人支援計画の「義務的支援10項目」は、多くの解説記事が項目名と概要を列挙するにとどまっている。しかし実務上重要なのは、運用要領が各項目について定める「適切に実施したとはいえない」という基準不適合ラインと、「望ましい」という努力目標ラインの違いである。この2つを混同したまま支援計画を作成・実施すると、基準不適合を指摘されるか、逆に過剰な体制を組んでしまうことになる。本稿では、令和7年4月1日施行の改正点も含め、10項目それぞれの基準適合ラインを整理する。
1. 令和7年4月改正:共生施策の確認義務
令和7年2月17日公布・同年4月1日施行の改正により、支援計画の基準に新たな要件が加わった。1号特定技能外国人が活動する事業所の所在地及び住居地が属する地方公共団体が実施する共生施策を確認し、これを踏まえて作成した支援計画でなければならない。
実務上見落とされやすいのは、支援計画への記載(確認した市区町村名・確認日・確認方法)だけでなく、所属機関が市区町村に対して「協力確認書」を提出する義務がセットになっている点である。確認したことの記録だけで終えているケースが散見されるが、これは改正の趣旨を満たしていない。
2. 10項目の基準適合ライン
(1)事前ガイダンス
対面またはテレビ電話等で本人確認を行った上で実施することが要件であり、文書郵送やメール送信のみでは基準を満たさない。実施時間は1時間未満は適切に実施したとはいえないとされる。記録は事前ガイダンス確認書(参考様式第5-9号)への署名取得が必須。
(2)出入国時の送迎
出国時は保安検査場前までの同行確認が必須。港への送迎だけで終える運用は基準不適合にあたる。登録支援機関が車両で送迎する場合は道路運送法の許可が必要な点にも注意。
(3)住居確保
1人当たり7.5㎡以上の居室提供または確保支援が必要(技能実習からの転換者を除く)。敷金・礼金等の名目での不当な経済的利益の獲得は基準不適合。
(4)生活に必要な契約支援
銀行口座・携帯電話・ライフライン契約の書類提供と窓口案内、必要に応じた同行が求められる。技能実習からの転換で既に契約済みの場合は実施不要。
(5)生活オリエンテーション
入国後遅滞なく、十分に理解できる言語で実施。新規受入れの場合は8時間未満、技能実習から環境変化のない転換者の場合は4時間未満は適切に実施したとはいえないとされる。動画視聴による実施も可能だが、質問対応体制の確保が条件。記録は生活オリエンテーション確認書(参考様式第5-8号)。
(6)日本語学習の機会提供
教室等の入学案内情報の提供に加え、必要に応じて同行して入学手続を補助することが求められる。
(7)相談・苦情への対応
週当たり勤務日3日以上・休日1日以上に加え、相談しやすい就業時間外(夜間)等にも対応できる体制が求められる。なお、相談・苦情専用のメールアドレスの設置などにより可能な限り休日や夜間においても対応可能な体制を整えること、緊急時の連絡先を設け基本的にいつでも連絡が受けられる体制を構築することは「望まれます」とされており、こちらが努力目標にあたる。対応言語が外国人にとって理解できない言語である場合は基準不適合。
(8)日本人との交流促進
地域行事の情報提供だけでなく、参加手続の補助までが求められる。
(9)転職支援
外国人の責めに帰すべき事由によらない契約解除の場合、次の受入れ先確保のための支援(業界団体等を通じた情報提供・職業安定機関への案内・推薦状作成・職業紹介のいずれか)と、求職活動のための有給休暇付与が義務。所属機関が倒産する場合に備え、事前に支援代行機関を確保しておく必要がある。
(10)定期的な面談・行政機関への通報
3か月に1回以上、外国人本人及びその監督者の双方と面談を行う。オンライン実施は本人の同意を要件に認められるが、特定技能雇用契約の終了の日から1年以上、録画を保管する義務がある。面談で法令違反を知った場合、労働基準監督署等への通報を怠ると基準不適合となる。漁業分野は無線・船舶電話での連絡と帰港時面談という特例がある。
3. 「全部委託のみ基準適合みなし」の原則
支援計画の実施を登録支援機関に全部委託した場合に限り、基準に適合しているものとみなされる。一部委託の場合は、委託していない部分について所属機関自身が基準適合を満たしていることの確認が必要であり、「委託しているから大丈夫」という整理は成り立たない。この点は、登録支援機関を紹介・提携する立場からも、所属機関に対して明確に説明すべき論点である。
まとめ
義務的支援10項目は、項目名を押さえるだけでは実務上不十分である。運用要領が定める時間・体制・記録の基準ラインを正確に把握し、「望ましい」と「適切に実施したとはいえない」を区別して運用することが、基準不適合の指摘を避ける鍵となる。
参考文献
あわせて、協議会・受入れ機関要件の名称混同については特定技能の協議会・受入れ機関要件、名称混同と実務上の注意点、受入れ見込数・人数枠の誤解については特定技能の受入れ見込数・人数枠、実務で誤解されやすい4つの論点、制度改定の反映タイムラグについては特定技能、令和8年1月23日改定の反映タイムラグ問題、登録支援機関に固有要件を課す分野の横断整理については登録支援機関に固有要件を課す7分野の横断整理、木材産業分野の協議会加入手続きについては木材産業分野の協議会加入、2段階手続きの実務フロー、リネンサプライ分野の位置づけについてはリネンサプライは工業製品製造業の一区分ではない、自動車運送業分野の日本語要件については自動車運送業の日本語要件、参照枠とJLPT換算の混同に注意、特定技能の届出(随時届出の種別・起算日・期限)の誤解については特定技能の届出、「期限内到達」と「自己都合退職=受入れ困難届出」の誤解を参照されたい。
本稿は2026年10月時点の公開情報に基づく実務メモです。

